獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
SHISHIMAI habitat city (Shibuya edition)
獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
「SHISHIMAI habitat city」は、日本全国500件以上の獅子舞を取材してきた知見を生かし、獅子舞にとって暮らしやすい都市のあり方を探求するプロジェクトです。ナナナナ祭2024では、昨年に引き続き「100BANCHの獅子舞」を渋谷に出現させました。通りすがりの方々に実際に獅子舞の中に入ってもらい、一緒に舞い、渋谷の街を練り歩く体験を生み出しました。渋谷の街で獅子になるとはどんな体験だったのか。ナナナナ祭期間中、獅子舞となって舞い続けた「SHISHIMAI habitat city」稲村がお伝えします。
「SHISHIMAI habitat city」というプロジェクトは、獅子舞ユニット「獅子の歯ブラシ」による、実験的でカジュアルな共同体の獅子舞。渋谷・100BANCHにシシが舞い歩くとしたら、それはどのような姿かを考え、100BANCHに入居するさまざまなプロジェクトを想起させる素材を使って作られます。その獅子は渋谷川沿いを練り歩き、舞いは100BANCHの中で仕事や創作に邁進する人々をイメージして行われます。コミュニティの内外をつなぎ、交流を促すとともに、頭を噛んでくれて厄を祓い、幸せをもたらしてくれる存在です。
昨年の第1回目の獅子頭と胴体を引き継ぐ形で、実施された今回の100BANCHのシシ。大きな変更点としては、その胴幕にSNS投稿をプリントしたことでした。
100BANCHのX(Twitter)、Instagram、Facebookの投稿を携帯でスクショして、それをプリントシートに印刷。それをひたすら100枚分、シシの胴幕に貼り付けていきました。A4なので、胴幕のサイズに対して小さい印象がありましたが、それをひたすら貼り付けることで可愛らしさや迫力が出てきました。
なかなか作業が終わらないので、本番の2日前くらいに一回、徹夜をしました。作業中に、「あ、ここに〇〇さんの写真でてますよ」という交流が生まれて、100BANCHメンバーと交流を深めることができたのは良い思い出です。そう、100BANCHのシシは共同体をつなぐ獅子舞なので、舞うだけでなく制作の段階からコミュニティのメンバーを繋いでくれたのです。
完成した100BANCHのシシは、100BANCH周辺を舞い歩きました。7月12日〜14日の期間で行いましたが、この3日間は雨が直撃したので、舞ったり中止したりの連続で臨機応変な対応が求められました。獅子頭も雨によってずぶ濡れになり、ふやけてしまったので補修する場面もありました。昨年は強烈な晴れで暑すぎたのですが、今回は雨だったので多少日差しが気にならないくらいの涼しさはありました。
また、昨年との変更点として、100BANCH周辺での練り歩きだけではなく、金王橋広場でのステージ演舞を行う場面もありました。舞いをより長く飽きずに見てもらうために、新しい動きを取り入れることが必要だと意識して、獅子舞の演舞をしていました。
<獅子舞演舞の流れ>
①獅子の歯ブラシの稲村・船山が100BANCH前でソロ演舞
②胴体の中に観客を誘い込む
③単純な振り付けで練り歩きを行い、金王橋広場周辺で折り返して、100BANCHに帰還
④参加者に特製歯ブラシのプレゼントを渡す
7月12日:12時半〜13時
7月13日 :12時半〜13時, 14時〜14時半, 16時〜16時半, 18時〜18時半
7月14日 :12時半〜13時, 14時〜14時半, 16時〜16時半, 17時半〜18時
実際に演舞して感じたことは、渋谷の獅子舞に対する寛容度が場所によって異なるということでした。金王橋広場では70デシベルの音量制限があり、それを超えると周辺のお店から苦情が寄せられてしまうという規制があります。それゆえ、少し音を抑えて演舞する必要がありました。しかし思いっきり音を出さないと、獅子舞の本質である厄祓いによって福をもたらすことが実現できないわけです。結局、70デシベルの規制があることで、音量をスピーカーで調節できるような音の出し方しかできないので、不自由な演奏・演舞にならざるを得ず、お互いの顔色を伺い合うような閉鎖的な感覚を持ちました。そして結果的に金王橋広場では「音無しの獅子舞」となりました。
その一方で100BANCH前の渋谷川沿いの空間は、金王橋広場ほどビルが近くないため、70デシベルの制限がありませんでした。そのため思いっきり自由にのびのびと音を出して獅子舞を演舞することができました。同じ渋谷でも、これほどまでに「獅子舞が生息できる場所とそうでない場所があるのか!」と驚き、これは今回、最も大きな発見であったように思われます。そう考えると金王橋広場から100BANCHに向かって歩くときに横断歩道がない道路を横切る風景をよく見るのですが、あの道路はまさに渋谷の獅子舞生息可能性を考える上での大きな境界線であるように思われます。
そのような環境下でも、無理矢理にでも金王橋広場と100BANCHを往復したことで、僕は渋谷の街に獅子舞が馴染むため、和解の術を探っていたように思われるのです。これは獅子舞が「100BAHCHのシシ」という、共同体を背負った獅子舞であることを考えればなおさらのことです。100BANCHというコミュニティの生息可能性すらも背負っているように思われて、引き締まるような思いでした。さて、渋谷の街はこれから獅子舞にとって優しい場所が果たして増えていくでしょうか、そして100BANCHのコミュニティはどこまで拡張するのでしょうか。これからも考えていきたいテーマです。